早見和真の本を初めて選び、親子の関係に関心があるなら、『アルプス席の母』を入口に提案します。一家の長い時間と仕事を追いたいなら『ザ・ロイヤルファミリー』、人を一面的に判断することへ問いを向けたいなら『イノセント・デイズ』。この3冊は続き物ではないので、刊行順ではなく、今読みたい題材から選べます。

同じ著者でも、高校野球の応援席から見る親子と、死刑判決を受けた女性をめぐる物語では、向き合う内容が違います。話題になった本から順に読むより、「誰の立場を追いたいか」を一つ決めると、候補を絞りやすくなります。

選ぶ基準は、立場・題材・続けて読む分量

最初の一冊を絞る3つの確認
  1. 1
    誰の立場を追いたいか
    子どもを支える親、一家に関わる秘書、ある女性を知る人々。近づきたい立場を選びます。
  2. 2
    今日はどの題材を読めるか
    親子や保護者同士の関係、家族の継承、犯罪と死刑。題材の重さを先に確かめます。
  3. 3
    一つの物語を持ち越せるか
    3冊とも長編です。一編ずつ別の話へ移りたい日は、短編と長編の比較記事から選び直せます。

親子の距離を読みたいなら『アルプス席の母』

看護師の秋山菜々子が、息子・航太郎の高校進学を機に大阪へ生活の拠点を移す物語です。航太郎が選んだのは甲子園常連校ではなく新興校。母にも、不慣れな土地での暮らしと父母会の人間関係が待っています。野球をする本人だけでなく、応援する側の生活に目を向けた小説です。[1]

向くのは、子どもの目標を支えることと、親自身の暮らしの間にある揺れを読みたい人です。編集部が親子に関心のある人の入口に挙げるのは、「子どもを見守る母」という視点を道しるべにできるため。野球の戦術や試合運びだけを期待するより、グラウンドの外で何が起きているかに注目してみてください。

今回は別の本がよさそうなのは、部活動の保護者づきあいや子どもへの期待から距離を置きたい人です。スポーツの題材だから爽快な場面だけが続く、と考えずに選びたい一冊。親子より仕事と一家の変化に関心があるなら、『ザ・ロイヤルファミリー』と比べてみてください。

一家の20年に浸るなら『ザ・ロイヤルファミリー』

父を亡くした税理士の栗須栄治は、馬券を当てた縁で、競馬に熱中する社長・山王耕造の秘書になります。有馬記念を目指す山王と関わりながら、馬主一家の20年を追う長編です。第一部は月、第二部は季節を章の区切りにしています。[3]

向くのは、一度の勝負だけでなく、長い時間のなかで仕事と家族がどうつながるかを読みたい人です。読む前に競馬の知識をすべてそろえるより、まず栗須が誰のために働いているのかを軸に進む方法を提案します。『アルプス席の母』の親子から、より長い時間で一家を見たいときの次の候補にもなります。

今回は別の本がよさそうなのは、競馬そのものに関心を持てない人や、長い物語を何度かに分けて追う余裕がない人です。新潮文庫は624ページ。分量を読了時間へ換算せず、月や季節の章を一つの休憩点にして、続きへ戻れそうかで判断してください。[3]

他人の人生の見え方を問うなら『イノセント・デイズ』

田中幸乃は、元恋人の家への放火で妻と幼い双子を死なせたとして、死刑を宣告されます。物語は、彼女の人生に関わった人々の追想を重ねて進みます。目次は「事件前夜」と「判決以後」の二部構成で、一人の人物が周囲にどう見えていたかをたどる長編です。[4]

向くのは、事件の見出しから受ける印象と、その人を知る人々の言葉を突き合わせたい人です。編集部では、犯人当ての手がかりを集める気持ちだけでなく、「この人は幸乃の何を知っているのか」と考えながら読む候補に位置づけます。視点の違いへ関心があるかが、選ぶ手がかりです。

今回は別の本がよさそうなのは、幼い子どもの死や死刑を扱う話を避けたい人、気軽な謎解きで気分転換したい人です。複数の人物が登場しても、独立した短編集ではありません。480ページの一つの物語として選んでください。[4]

3冊の対象版と分量を比べる

紹介する紙の版はいずれも全1巻
作品対象版ページ数ISBN
『アルプス席の母』子どもを支える親の側から対象版小学館・単行本ページ数351ページ(NDL)ISBN9784093867139
『ザ・ロイヤルファミリー』一家と仕事を長い時間で対象版新潮文庫ページ数624ページISBN9784101206936
『イノセント・デイズ』人を判断する見方を問い直す対象版新潮文庫ページ数480ページISBN9784101206912

『アルプス席の母』は国立国会図書館で351ページ、小学館の特設ページで354ページと表記されています。表では当サイトの書籍詳細と同じNDLの値を記しました。いずれも単行本の情報です。ほかの2冊は新潮社の文庫表記で、単行本や電子版の分量とは分けています。[1][2][3][4]

まだ迷うなら、一冊だけ詳細を開く

親子を読みたい気持ちがあるなら、まず『アルプス席の母』の詳細へ。家族を長い時間で追いたい気持ちが強ければ『ザ・ロイヤルファミリー』、人物をめぐる複数の見方にひかれれば『イノセント・デイズ』へ進んでください。長さだけで選ぶより、今夜続きを知りたいと思う問いがあるかを確かめる方法です。

決めきれない一冊は、書籍詳細の「読みたい」に保存できます。別の著者も含めて親子や家族の物語を比べたいときは関連記事の家族小説ガイドへ、題材から決め直したいときは下の気分診断へ。3冊とも今の気分に合わなければ、ここから無理に一冊を選ぶ必要はありません。