初めてなら、身近な職場から読むかで決める

村田沙耶香の小説が気になる一方で、題材の強さや長さが不安な人へ。つぎの一冊編集部では、身近な職場を足場に一作試したいなら『コンビニ人間』を最初の候補にします。ただし、短い本なら穏やかに読めるという意味ではありません。結婚や働き方をめぐる周囲の期待に、今は触れたくない場合もあるからです。

  • 職場で求められる「普通」と、一人の生活のずれを考えたいなら『コンビニ人間』
  • 家族や生殖の規範に踏み込み、強い身体的な表現にも触れる用意があるなら『地球星人』
  • 一人の人生と社会の変化を長く追いたいなら、上下巻の『世界99』

この三作を、難易度順の必修コースとして並べることはしません。まず今近づきたい問いを一つ選び、次に負担を確かめます。以下では出版社の書誌・作品紹介と公開インタビューで確認した設定を使い、編集部の選び方を提案します。読後の感情や読みやすさを保証する分類ではありません。

迷いをほどく3つの判断軸

1. 身近な生活を足場にしたいか

仕事場や周囲との会話を入口にしたいならコンビニ、家族が当然だと考えることを問い直したいなら地球星人、社会の仕組みが変わる過程まで視野を広げたいなら世界99。身近さは安心の保証ではなく、何を手がかりに読み始めるかの違いです。自分の生活に近い題材ほど、距離を置きたくなる日もあります。

2. 今、避けたい題材は何か

地球星人では家族や性・生殖、強い身体的な表現に注意が必要です。世界99にも差別や性に関わる加害、搾取の題材があります。刺激の強さを面白さの点数にはしません。今日はそうした話から休みたいと思うなら、この三作から無理に選ばず、気分の違う本を診断で探す選択もできます。

3. 同じ人物や世界に何度も戻りたいか

一冊を手に取って試したいのか、上下巻を通して同じ世界へ戻る読書をしたいのかで分けます。当サイトの対象版は、コンビニ人間が単行本160ページ、地球星人が文庫336ページ、世界99が単行本の上下各432ページです。版型も異なるため、数字をそのまま読了時間や難しさへ換算しないでください。

職場の決まりを足場にする『コンビニ人間』

古倉恵子は36歳で、長くコンビニのアルバイトを続けています。店のマニュアルに沿う生活と、結婚や仕事について周囲から向けられる期待。その間のずれを考える入口になる小説です。ここで紹介するのは文藝春秋の単行本版です。

向くのは、ひとまず一つの職場と一人の生活に焦点を絞りたい人。「自分が普通だと思う基準は、誰にとっての基準だろう」と考えてみたい日に候補にできます。身近な場面を頼りに読む方法を勧めますが、接客の仕事術や、働く悩みに答えをくれる実用書ではありません。

今回は別の本がよさそうなのは、結婚や雇用をめぐる他人の口出しから距離を置きたい人です。ページ数が少なくても、扱われる問いまで軽いとは限りません。試し読みで気になったのが職場そのものか、社会に合わせる人物のあり方かを覚えておくと、次の作品を選びやすくなります。

家族の規範に踏み込む『地球星人』

奈月は34歳。夫とは性行為をしない結婚生活を送り、久しぶりに訪れる親戚の家で、従兄の由宇と再会します。子どもの頃の二人が抱いていた魔法少女や宇宙人という捉え方も、作品の入口にあります。家族や生殖を当然とする世界との距離が気になる人へ紹介する小説です。

向くのは、周囲の決まりに合わせることだけでなく、その決まりから外れた見方を考えたい人。表紙や題名の印象だけで、かわいらしい異星人の冒険を期待して選ぶのは勧めません。新潮社掲載の書評でも強い身体的な表現が扱われており、この記事では結末に関わる具体的な描写を伏せています。

今回は別の本がよさそうなのは、身体や性に関わる強い表現を避けたい人、家族の話題が近すぎると感じる人です。コンビニ人間を読めたことを、この作品も同じ負担で読める根拠にはしないでください。巻数ではなく題材を先に確かめる、という選び方を重視します。

人生と社会の変化を追う『世界99』

如月空子は、関わる集まりごとに振る舞いを使い分けて暮らしています。空子の人生と並行して、ピョコルンというペットや技術の変化が、人々の暮らしや価値観にも関わっていきます。一人の生活だけでなく、それを取り巻く社会の変化へ関心を広げたい人の候補です。

向くのは、読み終える早さより、同じ人物と世界に何度も戻ることを選びたい人。中断する時は、空子が今どの集まりにいて、誰に向けた振る舞いをしているかを短くメモする読み方を提案します。多くの情報を一度に覚えられるかではなく、再開時に関係を確かめ直す余裕があるかで判断してください。

今回は別の本がよさそうなのは、短い一冊で区切りたい人や、差別・加害・搾取の題材から休みたい人です。集英社の公開インタビューでは、主人公の振る舞いや、そうした題材への著者の考えが説明されています。人物へ共感し続けられる物語、読後に気持ちが整う物語としては約束せず勧めます。

世界99は上巻・下巻で一つの作品です。当サイトでも一つの書籍ページにまとめており、購入先はそこで各巻を選べます。初めて読む時は上巻から下巻へ。この記事で比べる三作品を刊行順にすべて読むことと、この作品の巻順を守ることは分けて考えてください。

まだ迷うなら、一作だけ選んで残りは保存する

身近な職場から試したいという条件に当てはまるなら、まずコンビニ人間の書籍詳細へ。家族の規範そのものが気になるなら地球星人の題材を確かめ、長い読書へ進む気分なら世界99の巻構成を確認してください。一作読んだから次はさらに強い題材へ進まなくてはいけない、という決まりはありません。

下の紹介書籍から詳細を開くと、「読みたい」に保存して候補を残せます。購入を急がず、あらすじと対象版を見直すだけでも次の行動です。ほかの登録作品は著者一覧で探せます。今は作家より気分を優先したいなら読書診断へ。作品の重さや長さについて考え直したい人は、末尾の関連記事を入口にしてください。